2011年3月5日土曜日

講義録:補講の歩行(加藤)

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集合:13:00(16:00ごろに終了予定)
場所:墨東大学京島校舎
担当:加藤文俊
参加者:2名(教員1+学生1)
内容:
ついにフィナーレをむかえる「墨東大学」ですが、単位が足りないひとのことも考えつつ、補講(の歩行)をすることにしました。
この日は、キラキラ橘商店街を中心とするエリアを歩きます。内側の路地もふくめるかもしれません。いずれにせよ、最後に京島の風景をたっぷり味わうことを重視したいと思います。
ベースになるのは、考現学的な採集の方法です。
卒業制作がまだのひとは、カンバッチや写真パネルの制作などに結びつけることもできるでしょう。
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ようやく、この日が来ました。墨東大学 平成22年度最後の講義(実習)です。まぁいろいろありましたが、昨年の10月から、50近い講義や演習が開講されて、何とか無事にフィナーレを迎えることができそう…。
きょうは、単位が足りない学生のための「救済措置」として急遽企画した補講でした。直前まで、出席のエントリーがなかったので、ついに「一人授業」が実現する!と、少し興奮していました。すでに、1月末の長岡先生の「大人の学び論 III」では、「二人授業(教員+学生)」がおこなわれていたので、いっそのこと「一人授業(教員だけ)」をやってみたい…と思っていたのです。

しかしながら、前の晩、寝る前にウェブを見たら、一人だけ出席の登録がありました。東京都市大の学生であることはなんとか想像できたのですが、たぶん会ったことはない。(なんか、ドキドキするなぁ、こういうの。)けっきょく、「二人授業(教員+学生)」となりました。

快晴。少し、暖かくなったみたいです。13:00ちょっと過ぎに京島校舎に到着。すでに受講生は待っていました。TT大のT君でした。えらい。一人だけ、この晴れて気持ちのいい土曜の午後、ぼくにつき合ってまちを歩かされるなんて!(じつは「受講者が一人みたいなんですけど、予定どおり開講されますか?」という照会があったことに、気づいていませんでした。きょうの昼過ぎに家を出てから気づいて、「あ、きっと不安だっただろうな…」と思ったわけです。)

さっそく、簡単な説明をしてからまちに出かけました。
最近のぼくの関心は、川跡(水跡)を辿るまち歩きです。武蔵小山・戸越・立会川へと向かう「品川用水」の界隈でフィールドワークをすすめている最中です。そのなかで、もしかするとすごくあたりまえかもしれないながらも、かつての川(水)の跡を示す“サイン”のようなものが見えてきました。
同僚の諏訪さんとのまち歩きですが、まずは、(ちょっと不自然な感じで)幅が広い道。そしてまさか、わざわざこんなことはしないだろう、というように蛇行する道。これはたぶん、水の跡だと考えられます。
そして、暫定的ではあるものの[銭湯][クリーニング店][コインランドリー][酒屋][公園]があると、どうやら水が近い(近かった)と考えても良さそうです。実際にどうだったのかは、古地図(あるいは「東京時層地図」のようなアプリ)でチェックすることができます。


曳舟のあたりを地図で眺めたり、ちょっと調べものをしたりして、あのイトーヨーカドーの前の道は、かつては曳舟川が流れていたことがわかりました。通りは、いまは「曳舟川通り」だし、ちょっと明治通りに向かって歩くと「曳舟川」という交差点があります。押上、スカイツリーのほうに向かって川が流れていたわけです。このあたりの舟の往来は、広重の「名所江戸百景」にも描かれていることがわかりました。
その曳舟川(曳舟川通り)から南に向かって、何本か蛇行する道があったので、おそらく支流(の跡)だろうと考えました。ここまでは、地図で道の形状を眺めていて考えたことです。

それを、歩いて感じる。上記の“サイン”があるかどうか、地図を片手に歩いてみました。歩いたコースは下記のとおりです。

110305_Kyojima at EveryTrail

EveryTrail - Find trail maps for California and beyond

結論から言うと、上に挙げた“サイン”は、これらの蛇行する道沿いでたくさん見つかりました。加えて[医院(病院・針灸など)][魚屋][釣具店]なども、川跡(水跡)に関係あるのかもしれません。この分布図は、近いうちにつくろうと思います。
ところで、仮説と言いながら、たくさん水を使う商売(銭湯、クリーニングなど)は、川の近くに立地するのは当然。水が人を呼び、人が集うとすれば、酒屋があっても不思議はない。公園や緑は、水の近くにあるはず。
…というわけで、あれ、べつにあたりまえだな、という気持ちもいだきつつ、初めて会ったT君とのまち歩きが続きました。


立地、つまり人びとの生活の痕跡が、水や地形などの諸条件と関係していることは容易に想像できます。でも、何度か「品川用水」を辿って歩いていたおかげで、ぼく自身の身体感覚が変わってきた、と考えることもできるでしょう。つまり、蛇行した道を感じて、あたりを見回して“サイン”があったら、じぶんはかつての川の跡に立っているということがわかる…。ひとたび、その感覚を獲得してしまえば、地図もアプリも必要なくなります。

フィールドワークというのは、まちや地域を知るためのアプローチではあるものの、じつは、歩くことによって、退化した感性/身体感覚を取り戻すのに役立つのかもしれません。


最初に計画していた経路を辿って、14:40ごろに京島校舎に戻りました。ちょうど90分くらい、ずっとT君とあれこれ話をしながら、まちを歩いていました。マンツーマンというのも、なかない面白い。お疲れさまでした!
(報告:加藤文俊)