2010年11月6日土曜日

中島くんが、ナカジになるまち

中島くん、いやナカジ、いきなり名前を出してごめんなさい。でも、もうみんな知っているから許してください。先日、bockt(リサーチユニット)のメンバーである岡部さん、木村さんと墨東大学についていろいろ話していたときのこと。とても大切な話題だったので、少し整理しておきたいと思います。冒頭の中島くんは、「墨東まち見世2010」の事務局メンバーとして、そして墨大のスタッフとしても活躍中です。

アートイベントにかぎらず、初めての場所で、見知らぬ人と出会い、そこで関係性を築いていくのは容易ではありません。どれだけ細心の注意をはらっても、人びとの日常生活に「おじゃま」することになるからです。もちろん、アートという活動(そして作品)をつうじて、まちに関わる試みには意味・意義があると思います。でも、その基本にあるのがコミュニケーションであるという点を忘れてはならないのです。
「よそ者」という立場でまちに入り、その中で成員性(メンバーシップ)を獲得していくという過程は、まさしくフィールドワークの基本です。『キャンプ論』のなかでも、そういう説明をしている箇所があります(下図は第5章より)。つまり、まずは「お客さん」としてまちを歩く。やがて「顔なじみ」になり、ラッキーなら「仲間(新参者)」になれる。おそらくは、アートでも、フィールド調査でも、人やまちを対象に活動するのであれば、この道筋はきちんと理解しておく必要があります。それも、アタマだけで理解するのではなく、身体で。
予期せぬ場面でお叱りを受けることは茶飯事。もちろん、暖かく迎え入れられる場面も。とにかく、まちも人も複雑な日常のなかで成り立っているので、そう簡単にはわからない。そういうつもりで、まちを歩き、たくさん刺激を受けることが大切です。


さて「よそ者」は、関係性を築いていくなかで、じぶんの立ち位置をどうやって確認することができるのか。ひとつのわかりやすいサインは「呼び名」です。当然、名前を覚えてもらう/覚えるということ(=つまり、顔と名前が一致すること)は必須なのですが、あるタイミングで「呼び名」が変わることがあります。「呼び名」は、〈関係性の現われ〉です。ぼくたちが誰かに声をかける/声をかけられるという場面では、何か用件があって呼ぶという側面はもちろんのこと、その「呼び方」は、関係性の表明でもあります。

岡部さんの話によると、どうやら〈中島くん〉は〈ナカジ〉になったようです。ぼくも、それにつられて、自然と〈ナカジ〉と呼ぶようになりました。〈中島くん〉にとって、〈ナカジ〉になったことは、きっと嬉しいハプニングだったと想像できます。それは、気まぐれで皆さんがそう呼ぶようになったのではなく、〈中島くん〉が何度も足をはこび、事務局の仕事に真面目に向き合っていた結果なのだと思います。逆に、〈ナカジ〉になったということは、責任を負うことにもなります。ヘタはできなくなります。いずれにせよ、ちょっとした「呼び名」を見るだけで、ぼくたちの関係性を推し量ることはできるように思います。

さて、ここで興味ぶかいのは、〈中島くん〉はどこに行っても、〈ナカジ〉になれるかどうか…という問題です。個人のキャラクターはもちろん、能力や姿勢は問われます。でも、もういっぽうで、まち自体が〈中島くん〉を〈ナカジ〉にしたという側面もあるので、おそらく〈ナカジ〉になれない/なりにくいまちがあってもおかしくはありません。半年で〈ナカジ〉になれるまちと、何年経っても〈中島くん〉のままのまちもあるはずです。
そう考えると、「数か月(じつはそれ以上の時間?)で〈中島くん〉が〈ナカジ〉になれるまち」というのは、まち自体の価値を示す指標になるのかもしれません。厳しい目を持ち、そして同時に優しい。ひとたび受け入れたら、絶大なる信頼と期待でお互いを呼び合う。ナカジが、いわばもの差しになるのです。たとえば、(実現可能かどうかはわかりませんが)ナカジをいろいろなまちに送って、どのくらいの時間で〈ナカジ〉になれるかを確かめれば、それでまちや地域コミュニティのもつ潜在的な「力(capacity)」についての理解や評価ができるのではないか…。そんなことを考えさせられました。

じつは、墨東大学のプロジェクトも、〈大学〉という仕組みや語り口を活用しながら、まちや地域コミュニティを理解することを目指しています。縁あって、墨東エリアでスタートしていますが、可能であれば、いろいろなまちで〈○○大学〉を試してみたときに、まちの理解に役立つのではないかと考えたのです。

たとえば、下記のようなリストをつくることができます。チェックリストのようなものですが、それは、観察者の目線でまちや人に触れながら、逐次書き加えていくリストです。時間は短くても、直感的でも、ぼくたちの「よそ者」なりの感じ方で、まずはこのリストをつくってみることからはじめたいと思います。それは、墨東大学というプロジェクトのひとつの成果になります。

・(まるでアメリカ旅行に行ったときみたいに)すれ違いざまに知らないひとに「こんにちは/こんばんは(アメリカだと、Hi!)」と声をかけられるまち
・iPhoneの充電をしたいとき立ち寄れるカフェ(珈琲店)があるまち
・お総菜がキラキラしているまち
・お総菜を買うと暖めてくれるまち
・お総菜を買うと食べやすいように切り分けてお箸をくれるまち
・ベンチがあってしばし休憩できるまち
・ちいさな飲み屋に常連が集うまち
・ちいさな飲み屋で酔った客どうしがちょっとした怒鳴り合いをするまち
・ちいさな飲み屋のちょっとしたいざこざを仲裁するひとがいるまち

もちろん、ちょっと窮屈に感じたり、?と思ったりすることも出てくると思います。いずれにせよ、墨東に出かけたときには五感を開放して、リストのアイテムを増やすことを考えてみましょう。〈中島くん〉は〈ナカジ〉になりましたが、墨東大学はまだまだです。〈中島くん〉のレベルにも達していません。いろいろ、課題があることは承知の上で、すすめていきたいと思います。まずは〈墨東大学〉の存在を知ってもらうことからです。

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