2010年11月26日金曜日

講義録:ミニマムアーバニズム I(木村)

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2010年11月20日(土)21日(日)26日(金)16:00〜18:00
講義名(担当者):ミニマムアーバニズムⅠ(木村)
開講場所:墨東大学京島校舎、キラキラ橘商店街
参加人数:1名

内容:受講者自身がインタビューによってまちに住む人の要望を聞き、椅子のデザインを考え、作成、納品します。
このプロセスから、「まちづくり」や「都市計画」の原点を見つめなおします。
※当初の予定ではキラキラ橘商店街の店舗前に設置するベンチを製作する予定でしたが、今回のクライアントである山田薬局の藤井さんの要望により、急遽店内で使用する椅子をつくることに予定変更。
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【一日目:11月20日】
今回の「ミニマムアーバニズムⅠ」、受講者はなんと@woochoi一人。教員である僕と二人きりで授業のスタート。
墨東大学はなかなか豪華なのです。


墨東大学京島校舎にずらっと並んだ木材、電動工具を前に簡単にミーティングを済ませ、さっそく今回の「クライアント」である山田薬局の藤井さんの元にインタビューに向かいます。藤井さんには前もってお店に置く椅子を作らせて欲しいということをお願いしてありましたが、こんな奇妙な願い事にも快く応じて下さる藤井さんは、やはり大きな包容力=墨東マインドを持った方で、今回はその大きな心に応えるべく作業に励みました。
インタビュー場所はまさに椅子が納品される店舗。@woochoiが緊張した面持ちで「どんな椅子が欲しいか」をインタビューします。そこで藤井さんが語った要望は以下のような意外かつ難易度の高いものでした。

・レジカウンターの奥のスペースで使う椅子
・カウンター奥のスペースは奥行きが35cmしかない
・ゆったり座るというよりも、半分立ち、半分座るという姿勢をとりたい

カウンターの奥のスペースは非常に狭小ながらも、お客さんと対面する重要なスペースで、今までは立ったまま接客や伝票整理などをこなしてきたとのこと。ここでの仕事を少しでもサポートするための椅子、というわけです。一瞬@woochoiは(そして僕も)戸惑いましたが、さっそくカウンター奥のスペースと藤井さんの体の寸法を採寸。
「期待してるよ!」という藤井さんの言葉に若干のプレッシャーを感じながらも、実測で得た数字を持って早速京島校舎へ戻ります。


京島校舎では、ブロックと木の板を組み合わせた即席のドラフティングボードの上でスケッチを繰り返します。まずは通常の「椅子」のイメージを崩さなければなりませんから、頭をやわらかくしつつ、壁際で実際に「半分立ち、半分座る」という姿勢をとってみたりしながらデザインを考えていきます。条件は確かに厳しいのですがいままでに見たことのない椅子が出来るかもしれない、という期待感が徐々に高まり、様々なアイデアが浮かび@woochoiのスケッチも進んでいきます。そしておおよその方針がまとまったころ、二人の飛び入りゲストが京島校舎にふらりと現れました。北條元康さんとティトス・スプリーさんです。北條さんは地元工務店の若旦那、ティトスさんは八広に居を構えるアーティストです。最初は冷やかしのつもり(?)で立ち寄ってくれたようですが、@woochoiのスケッチや部屋に並ぶ木材や工具がお二人の心に火をつけたのでしょう、構造や施工面でのアドバイスをたくさんいただきました。


そもそもこの講座は「よそ者」である僕たちが京島の人・まちに寄与することで何かを学ぶ、という講座でしたが、そこに、さらに地元の人達(北條さん、ティトスさん)のサポートが加わり、より深みのある時間が流れはじめました。

デザインも決まったところで、いよいよ部材の切り出し。@woochoi人生初の電動ノコギリです!怪我をしないように、まっすぐに切れるように、まずはいらない木材でカットの練習。いきなり誰かのための家具を作る、という行為は「プロ」ではないからこそできる行為とも言えます。しかし逆に「プロ」ではないからこそ、道具の使い方にはより慎重にならなくてはなりません。何度かの練習でコツを掴んだ後、いよいよ本番。ゆっくり慎重にカットしていきます。最初は不安げだった@woochoiの表情も徐々に自信に満ちていき、順調に作業は進んでいきます。ほぼ全ての部材を切り出したところで、一日目の授業はタイムアップ。翌日の組立て作業に備えて解散。



【二日目:11月21日】
二日目となるこの日は、京島校舎でひたすら作業です。まずは座面をきれいに磨く作業。人の体に直接触れるパーツですから、木材のエッジを丁寧に削っていく必要があります。クライアントである藤井さんと一度きりとはいえ、直接対面し言葉を交わしたせいか@woochoiも座面の磨きにはかなりの拘りをもって臨みます。翌日の筋肉痛など恐れずにひたすらヤスリをかけていき、柔らかい曲面を持ったきれいな座面が出来上がりました。あとは前日切り出したパーツをビス留めによって組み立てていきます。@woochoi人生初の電動ドライバー。やはり最初はなかなかビスがまっすぐに入りませんが、これも練習によって克服し順調に組立作業を行っていきます。このくらいの工程になってくると、@woochoiの表情や仕草、道具使いもかなり頼もしいものになっています。そしていよいよ最後のビスを打ち込んで、完成。


一見、椅子には見えない不思議な形をした椅子が出来上がりました。あちこちから感慨深げに眺めた後、恐る恐る椅子に腰掛けてみます。強度的にも問題なさそうです。たまたま様子を見に訪れていた墨大の加藤先生にも座ってもらいお墨付きをいただきフィニッシュ。なんとも言えない充実感が京島校舎の小さな空間に満ちていく瞬間でした。
そして翌週、この出来立ての椅子を藤井さんに納品しに行きます。納品のことを考えた瞬間、先ほどまでの束の間の充実感は消え、また新たな緊張が僕たちを包みます。藤井さんがこの椅子を気に入ってくれない可能性、使ってくれない可能性は充分にあるわけですから・・・・・

【三日目:11月26日】
いよいよ納品日です。出来上がった椅子を持って藤井さんがいる数軒先の山田薬局に向かいます。
二日目に感じていた緊張感はさらに高まり続け、緊張のピークに達したところでちょうど山田薬局に到着。@woochoiが恐る恐る藤井さんに椅子の完成を伝えます。出来上がった椅子を見た藤井さんは「これが、椅子・・・?」と言いたげな不安げな表情を一瞬浮かべます・・・・そして例のカウンター奥のスペースに椅子を置き、実際に座っていただきました。
藤井さんはさっきまでの不安な表情から一転「こりゃ、いいね。」と僕たちに笑顔を向けてくれました。


@woochoiも満面の笑み。ここでようやく僕たちの緊張も解れます。藤井さんは何度も立ったり座ったりを繰り返しながら「これは世界に一つだけの椅子だね。こんな狭い場所に置ける椅子は売ってないし、助かるよ」と感想を述べてくれました。しかしこれだけでは終わりません。@woochoiは自分の連絡先を書いた紙を藤井さんに渡し「壊れたり調整が必要なときはいつでも連絡ください。」と告げます。そう、この椅子は「一生保障」付きなのです。この椅子がある限り、藤井さんと@woochoiの関係はずっと続いていくのです。最小限の都市計画は、勇気をもって人にアクセスすることから始まるのかもしれない、と感じた瞬間でした。実際見えづらいことではありますが、人と人のつながりがまちを形成する大きな要素の一つであることを墨東のまち、そして人が教えてくれたような三日間でした。
(報告:木村健世)

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